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名古屋地方裁判所 昭和52年(む)88号 決定 1977年3月22日

主文

本件忌避の申立を却下する。

理由

一、本件忌避申立の趣旨及び理由は、申立人作成名義の別添「裁判官忌避の申立書」、「忌避申立補充書」及び「上申書」と各題する書面に各記載されたとおりであるが、要するに、申立人を(準)抗告人とする前記準抗告事件を担当する裁判官吉田誠吾は右事件に関して、不当な予断と偏見を有し、不公平な裁判をするおそれがあるから、同裁判官を忌避する、というのである。

二、ところで、本件忌避申立事件記録及び当裁判所の事実調べの結果によると、申立人は、昭和五二年二月八日付書面により、当地方裁判所に対し、前記押収物還付処分に対する準抗告を申立てたが、同じく同日付書面により、右事件に関し、裁判官吉田誠吾及び同辻下文雄を忌避する旨の申立をし、右二通の書面は、いずれも、同年二月一四日、当地方裁判所へ一括して郵送され、直ちに事件係で受付けられたこと、その後、右準抗告事件は、当地方裁判所刑事第二部(裁判長裁判官吉田誠吾、裁判官白井博文、同竹田隆)に配てんされたため、これを知った申立人は、裁判官辻下文雄に対する忌避申立を、事実上取下げる趣旨の書面(別添「上申書」と題する書面)を提出したこと、申立人が、本件忌避申立をした時点において、前記準抗告事件の具体的な配てんは定まっておらず、申立人自身も、右事件を担当すべき裁判官を認識して、右申立に及んだわけではないこと、このように、申立人が、本案事件の具体的な配てんも定まらない段階で、予め、前記両裁判官を忌避する旨の申立をした真の理由は、右申立をすることにより、本案事件の配てんについて、これが右両裁判官の所属する裁判部以外の裁判部に配てんされるなど司法行政上特別の措置の講ぜられることを期待したことにあること、以上の事実が明らかである。

三、裁判官忌避の申立は、本案事件の審理を担当すべき裁判官が具体的に定まった後において、申立人が、右裁判官につき、除斥事由又は不公平な裁判をするおそれのあると思料する場合になすべきものであって、本件におけるように、本案事件を審理すべき裁判官も具体的に定まっていない段階において、(もとより申立人自身も、これを認識しないまま、他の特別の目的をもって、)予め特定の裁判官を忌避するような申立は、忌避制度の趣旨に照らして許されない不適法なものといわざるをえず、この点に関する手続上の瑕疵は、その後、本案事件が、忌避された裁判官の審理担当すべきものと定まったことによって、治癒されるものではないと解するのが相当である。

四、果たして然らば、裁判官吉田誠吾に対する本件忌避申立は、その実体について判断するまでもなく、不適法としてとうてい却下を免れないものであるから、刑訴法二三条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 服部正明 裁判官 木谷明 黒木辰芳)

<以下省略>

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